ファスビンダー傑作選@早稲田松竹

師走の寒い中、早稲田松竹ファスビンダーを観てきました。

西ドイツの「ニュージャーマンシネマ」を代表する監督で、37歳の若さで夭折した天才です。この人がもう少し長生きしていたら、一体どんな映画を撮っていたのだろうかと考えずにはいられない監督です。
1970年代から、バイセクシュアルであることを公言し、自分の愛人を、男も女も主役に起用していました。重度のジャンキーで、最後はヘロインのオーバードーズで死亡。めちゃくちゃな人生ですが、この人の撮る映画は、現実の重さをリアルに感じさせつつ、最後は必ず芸術に昇華されます。隠しようのない教養の高さということです。ランスフォントリアーと同じヨーロッパの真の文化人です。
そういえば、ずっと前に、「ケレル」についてブログを書いていました。3年前でした。

代表作「マリアブラウンの結婚」は、すでに自分のビデオライブラリーに収めています。よって、今回は、日本初公開の2作品を観てきました。

まずは、「天使の影」。これは、ファスビンダーの戯曲を、盟友のダニエルシュミットが監督しています。話の内容は、フランクフルトの娼婦が、ユダヤ人富豪にみそめられて、最低の生活から抜け出すのですが、本人のどうしようもない虚無感から、最後は破滅、自殺してしまう、という救いのない内容です。ユダヤ人をかなり悪く描いており、公開時は、アンチユダヤ主義と非難されたそうですが、本質的にはイデオロギーは関係ないですね。元々が舞台なので、セリフ回しが文学的で、シュミットの特徴であるカメラアングルの美しさが堪能できました。しかし、虚無感に飲み込まれて死んでいくヒロイン像は、現代でも普遍的で背筋が寒くなります。鬱気味の人が観てはいけない映画です。

2作目は、「不安は魂を食い尽くす」。これは、内容にちょっとショックを受けました。夫に先立たれ子供も独立して孤独な初老のドイツ女性が、バーで知り合ったモロッコ移民の20歳以上年下の男と、電撃的に恋に堕ち、結婚してしまうが、周囲の厳しい偏見に晒されて苦労する、という話です。ここまでは、いわゆる「差別に抗議して愛を貫く正義の二人」という感動的な話なのですが、凄いのは後半で、徐々に周囲の偏見を突破して、生活が安定してきた頃から、夫婦二人の人生観や生活感の違いが露わになって行き、結局、すれ違いから関係が破滅していきます。
これは、21世紀の今でも切実な内容です。ファスビンダーはこれを1970年代に撮っていたんですね。

帰りに気分転換を兼ねて、久しぶりに早稲田大学(実は母校)のキャンパスを歩いてきました。昔の学生会館のところが、「村上春樹記念館」になっていて、お洒落なカフェとか併設されていました。学生価格なので、コーヒーも安くて、長居できます。いい場所を見つけたな。