10/5 プレガルディエン@凸版ホール

凸版ホールの22周年記念公演(恐らく、本来は20周年でやりたかったのだけど、COVID-19の影響で2年延期?)で、シューベルトのリート(歌曲)チクルスを開催しており、3日目のラスト公演に行ってきました。

レパートリーは、「冬の旅」。シューベルトのみならず、ドイツ・リートの最高傑作です。演者は、クリストフ・プレガルディエン(テノール独唱)+ミヒャエル・ゲース(ピアノ)の黄金コンビでした。

当日夜は、気温が一気に下がり、しかも雨模様で、「冬の旅」を聴くにはピッタリの雰囲気の夜でした。

私は、「冬の旅」がかなり好きです。それは、この連作歌曲が、希望とか愛とかの肯定的な要素が一切なく、徹頭徹尾、暗く虚無的ですが、根底に冷めた諦観を持っているからです。社会に拒絶され、疎外され、安楽を求めて死のうと思っても、死からも拒絶され、最後はどうしようもない虚無感に包まれながらも「生きていく」ことを選択するという、とんでもなく重たい内容です。

しかし、この内容が、トラブルを抱える人を逆説的に救うのです。どんな悲惨な状況にあっても、虚無感に包まれて淡々と生き続ける、ということで、色々なものから解放される一種の諦念の境地に達することができます。非常に宗教的、しかも日本の仏教の考え方に近い。コンサル的な言い方でいうと、期待値コントロール、要は人生のハードルを下げるということ。

プレガルディエンのリリックテノールは、最初から最後まで輝き続けていました。全24曲の間、延々と続く緊張感と集中力。途中に休憩は一切なく、満員の聴衆を完全に冬の旅の世界に持っていってしまいました。とても66歳とは思えない声量と美しいドイツ語のディクテーションです。

ちょっと凄いものを聴いて、終演後に言葉がなかったです。スタオベも当然です。またアンコールが凄かった。4曲全部シューベルトで、最後の曲が、難曲の「夜と霧」。ハイトーンのビブラートに陶酔し、別の意味で持っていかれました。

プレガルディエン66歳、ひょっとしてライブで聴けるのは最後になるかもしれませんが、今日の演奏は、ずっと忘れないでしょう。