TAR 芸能とハラスメントについて

ジャニーズ事務所の性加害スキャンダルが大炎上していますが、そんな最中に映画「TAR」を観て、「芸能」と「ハラスメント」(セクシャル、パワー両方)について、色々考えさせられました。

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ストーリを簡単に説明すると、レズビアンをカミングアウトしている世界的指揮者のTARが、自身のセクハラとパワハラ起因により、ベルリンフィルの首席指揮者という、クラシック界の頂点から奈落の底に突き落とされる、という話。最後は、東南アジア(フィリピン)の辺境の地で、「モンスターハンター」の劇場上映会に合わせて、素人同然のオケを指揮する、というシニカルな結末です。(そういえば、どこのオケとは言いませんが、日本でも、こういうアニメ作品とジョイントして、日銭を稼いでいるオケっていますよね。)

ただ、この映画の優れているところは、大まかなストーリーはあっても、観客が如何様にも解釈できる余地を残しているところで、これは顧客の文化レベルが試されている映画でもあります。例えば、ラストシーンの「モンハン」も、何の説明ももないので、クラシックしか聞かない人達には、どういうオチなのかわからないでしょう。

また、内容自体は完全なフィクションなのですが、映画にリアリティを持たせるため、実在する人物も、映画内の会話で出てきます。良い例でも悪い例でも出てきます。TARが、ハラスメントで追求される場面では、「レヴァインもドゥトワもハラスメントで追放されたんだ」というような際どい会話が出てきます。レヴァインはともかく、ドゥトワは一応まだ現役ですからね。よく訴えられなかったな。

映画で印象に残っているところをいくつかピックアップします。

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  • メインで使われるのが、マーラーの5番。第一楽章の「葬送行進曲」と第四楽章の「アダージェット」ですが、前者はTAR自身に対する死刑宣告、後者は現世(ベルリンフィル)との惜別を比喩しているんだな、と後で気がつきました。
  • ベルリンを追われて、フィリピンに逃亡しているTARが、マッサージ屋と思って入ったところが、実は売春置屋で、金魚鉢の中にいる複数の少女からお気に入りをピックアップする、というシステムで、それを理解した瞬間に、これまで自分がやってきたことの鬼畜の所業がフラッシュバックしてきて、嘔吐するシーン。→それまでやってきたことに対して、ナチュラルに悪いと思ってなかったんだ。すごい鈍感力。

ジャニーズ事務所に限らず、所謂「芸能」という世界は、絶対権力者が生まれやすく、そういうクローズドな世界では、ナチュラルなパワハラ、セクハラが、何の悪意もなく横行するのでしょうね。

しかし、21世紀に入って、そういったっ世界にもメスが入るようになり、日本もついにジャニーズ事務所にメスが入りました。

日本のクラシック界も、そろそろシャルル・ドゥトワを安いからという理由で重宝するのは辞める時期だと思いますね。サイトウキネンとか新日本フィルとか。そういえば、去年のサイトウキネンで、「ドゥトワが指揮するなら参加しない」といって拒否した有名アーチスト(外人)がいたとか、あくまで噂レベルで聞いたことがあります。