8/17 ダンサーインザダーク

現在までラースフォントリア監督が商業的に最も成功した作品です。カンヌのパルムドールを受賞しています。日本でも異例のロングランヒットとなり、最終的な興行収入は20億円超。

マツコデラックスが号泣して、一番好きな映画と公言しています。一方、ネットでは「観終わって鬱になる映画」で検索すると真っ先に上がってくる二面性のある不思議な映画です。

要はそれだけ複雑な要素が混在しているということでしょう。というかある意味混乱しているといった方が正しいかもしれません。トリアーの現実的でクールで残酷な視点と、ビョークのアーチストパワーが激突してしまっているので、前者に強く反応する人は「鬱な映画」となるし、後者に反応する人は「母親の無償の愛に感動する映画」となります。

ストーリーはとても有名です。失明の危機にあるセルマが息子の目の手術と引き換えに、冤罪を受け入れ、最後は首吊りで死刑になるという話です。

普段のカメラアングルは、トリアー独特の陰鬱でざらざらした質感ですが、セルマの妄想であるミュージカルシーンとなると、ビョークの存在感が圧倒的すぎて、一気にビョークの世界に持っていかれます。その対比が強すぎて、ちょっと混乱している感じがします。

トリアーの最初の構想では、ラストのオチは、息子の目の手術も失敗して失明、セルマは絶望のうちに犬死、だったらしいのですが、「流石に救いがなさすぎる」とビョーク側から強烈なクレームが入って、ラストが変更になったそうです。流石に、オリジナルのままでは、ここまでの成功はなかったでしょうが、元のラストの方がトリアーっぽいです。

非常にメジャーな映画なので、トリアーの他の映画を見たことがない人達も、ネットで結構な数の感想を書き込んでいますが、「母の無償の愛で号泣」とか「セルマはもっと周りに助けを求めるべきだった=義憤」とか、およそトリアー作品とは思えないような真っ当な感想が並んでいて微笑ましいです。こういう人達には、是非とも「アンチクライスト」とか「ニンフォマニアック」も観て、感想を書いてほしいなと思いました。

なお、ビョークが「撮影時にトリアーからセクハラを受けた」と最近公表して、これに対してトリアーが全面的に否定の声明を出しており、両者の仲は、現在決裂中だそうです。