8/12 童年往事

現在、新宿のK's Cinemaで、台湾巨匠傑作選2023が開催中です。今年は、ホウ・シャオシェンの初期作品が来ています。

目玉は、日本初公開の「少年」で、これは毎上映回、満員となっているほどの盛況ぶりですが、私は、あえて「童年往事」を観てきました。

この映画、最初に観たのは、35年前です。1988の日本公開時、六本木にあったWAVEというセゾングループの文化発信基地のようなお洒落空間の地下にあったシネヴィバン六本木という映画館で観ました。この映画館にかかる映画はなんでもお洒落で、当時、それなりにとんがっていた大学生だった私は、内容も監督もよく知らずに見に行きました。しかし、大学生の私は、この映画の味を半分もわからなかったと思います。なんか退屈な場面が2時間延々と続くな、とか、日本のメロドラマみたいだな、といった印象しかありませんでした。

しかし、その後に続く「悲情城市」でノックアウトされてしまったんですね。完全にホウ監督にハマりました。

それで、初老となった私にとっては、「童年往事」のスローテンポは今の自分に心地のよい映画でした。このままいつまでも観ていたいなあ、と思わせる映画でした。

これは、ホウ監督自身の自伝的ストーリーで、第二次世界大戦後に台湾に逃げてきた外省人のホウ一家が、戦後の混乱の中を生きていく様子を、ホウ自身が子供の目で描いています。

まず、主役の少年が圧倒的に良いです。子役も青年役(ユー・アンシュン)も視線が強烈で、鮮烈な印象を残します。青年時特有の性の目覚めの描写が、とても微笑ましく、おじさんは優しい目で観てしまいました。

この映画の撮影時は、台湾はまだ戒厳令がひかれていて、戦後の混乱(二・二八事件)について直接的には描けなかったのですが、映画の前半で、暗に動乱が起こっていることを想起させるような場面(多数の警官が馬で駆けつけてくる)も出てきます。こういうところは、知識のある今だから理解できるところですね。

また、「台湾」というと、一般的には、のどかで平和なイメージが強いのですが、台湾の青少年の不良グループは、結構血の気が多く、乱闘から殺人となることが普通にあります。これは、アジアの黒潮文化なんですかね。フィリピンとか、日本だと土佐あたりの血の気の多さと同質だと思います。同時代の傑作「クーリンチェ少年殺人事件」もそういう話です。

ストーリーは、結構、毒も効いています。一ヶ月くらい寝たきりで、老衰死した祖母が床ずれを起こしていて(要はあんまり丁寧に介護してなかった)、それが葬儀屋に見つかって白い目で見られるとか。

カメラは、まんま日本の良質な家庭映画で、すなわち小津タッチです。いつまで観ていても飽きません。

「童年往事」「悲情城市」「クーリンチェ少年殺人事件」は、私にとって、台湾ニューフェーブのエバーグリーンな三本だと改めて確認しました。