7/25 アンチクライスト

ラースフォントリアーの鬱三部作の一作目です。内容がショッキングでエログロなので、レイティングは当然のようにR18。おそらく監督の鬱が一番ひどい時に撮ったのだと思いますが、悪夢のイメージが洪水のように繰り返し襲ってきて、鑑賞すること自体に、覚悟と勇気が入ります。

ストーリを掻い摘んで説明すると、
①心理カウンセラーの夫と学者の妻がセックスの快楽に溺れている最中に、赤ん坊が転落死→②自責の念に駆られて妻の精神崩壊→③よせばいいのに夫が妻の治療をすると言い出して、「森」へ連れ出し、二人きりでショック療法→④治療に失敗し、妻が完全にイカれてモンスター化して、夫殺されそうになる→⑤夫がわずかな隙を見逃さずに妻に反撃し、妻を絞殺、森で火葬して、一人「森」から出てくる。

訳がわかりませんが、画面に溢れる情報量が半端なく、それを咀嚼しながら観ていくと、この映画の知的レベルの高さがよくわかります。

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  • オープニングのモノクロ画面のスローモーションg恐ろしく美しく、バックに流れているのがヘンデルのオラトリオ。実はこの映画のハイライト部分。ちょっと異次元の美しさです。でも内容は、赤ん坊が転落死するところなんだよなあ。
  • キリスト教2000年の歴史において、ずっと「女」=邪悪の象徴であったことを延々と認識させるストーリー展開。夫婦が分け入っていく森の名前は「エデン」で、夫婦は文字通り「アダム」と「イブ」。妻の研究対象が中世の魔女狩り。どうやら、児童虐待もやっていたことが明らかになります。さらに、女の性欲を「悪」と描ききっています。最後には、狂った妻が、夫の足にかんぬきを貫通させて重しをつけて逃げられなくするのですが、これは、明らかにキリストの磔系のメタファーです。しかも、夫役はウィレムデフォーで、この人はスコセッシの「最後の誘惑」でキリスト役をやっていて、それを意識したキャスティングでしょう。
  • 「自然は悪魔の教会である」という主張が繰り返され、それに合わせて、森が物凄くグロテスクに描写されます。このへんは、デビッドリンチの「ツインピークス」と同じです。西洋人にとって、「森」は「邪悪なものが潜む場所」という認識のようです。
  • 妻役のシャルロットゲンズブールがマジで怖い。狂ってからは、何か邪悪なモノが乗り移って人間ではなくなります。これで、カンヌの主演女優賞とってますが、ちょっと女優イメージにダメージを与えるくらいの怪演です。

この映画は、現在、フランスでは、カトリック団体の圧力により上映禁止になっています。女性嫌悪が酷すぎる、というのが表向きの理由ですが、結果的には、キリスト教の根源的な思想である「女=邪悪」を明確に表現している点で、これはキリスト教関係者にとっては、上映が許されない映画でしょう。これに比べれば、エログロ度が高い「ニンフォマニアック」は、笑いえる分お咎めなしなのでしょう。

ところで、平日の夜にも関わらず、ヒューマントラストはほぼ満員。この企画、あまりの好評の結果、8月から再度2週間延長が決まりました。これで、今回は見られなかった「奇跡の海」「ダンサーインザダーク」「ドッグウィル」を鑑賞しに行くことができます。大画面で観れるのは楽しみです。ちなみに、3作品とも、エンディングは恐ろしく鬱でトラウマになります。