5/14 東響 エレクトラ@サントリーホール

指揮:ジョナサン・ノット
演出監修:サー・トーマス・アレン
エレクトラ:クリスティーン・ガーキー
クリテムネストラ:ハンナ・シュヴァルツ
クリソテミス:シネイド・キャンベル=ウォレス
エギスト:フランク・ファン・アーケン
オレスト:ジェームス・アトキンソン
監視の女:増田のり子
第1の侍女:金子美香
第2の侍女:谷口睦美
第3の侍女:池田香織
第4の侍女/クリテムネストラの裾持ちの女:髙橋絵理
第5の侍女/クリテムネストラの側仕えの女:田崎尚美
オレストの養育者:山下浩
若い召使:伊藤達人
老いた召使:鹿野由之
合唱:二期会合唱団

金曜日のミューザ川崎の初日公演のあとから、TwitterのTLがほぼ「エレクトラ」ネタになっていて、今回も反響が凄いなあと思っていました。私は二日目のサントリー公演に行ってきました。

今回LB最前列がとれたので、演奏中は、下手に配置することの多かったガーキーを、非常に間近で聴ける、観ることができました。「音の波動砲」とはよく言ったもんです。凄まじい。また、自分が歌っていないシーンでも完全にエレクトラが憑依していました。歌っていない時も目が離せない。

在京オケの某コンマスが、「楽器は、所詮は人間の声には敵いませんよ」という発言をしていましたが、まさにその通りだと思います。大編成の東響オケは、ダイナミクスと集中力が素晴らしく、高速パッセージはキレキレで、完成度はかなり高かったですし、ヴィオラとヴァイオリンの持ち替えや、ずらりと並んだクラリネット、ホルンなど、見所も沢山あったと思うのですが、結局のところ、唄い手が全てを持っていきました。オケはあくまで伴奏。唄なしのオケが主役であるはずのラスト「勝利の踊り」でさえも、巨体を揺らして陶酔しながら踊るガーキーに、視線が釘付けでした。

METをよく知る友人に「ガーキは凄いよ」と事前に言われていましたが、いやはや、これがMETの看板ソプラノなんだな、と素直に感嘆しました。こんなに近くで、しかもサントリーの環境でこのレベルの歌手を1万円ちょっとで聴けるなんて、東響の企画の人、ブラボーです。

クリテムネストラ役のシュヴァルツも流石に素晴らしかったです。このオペラの中では、単なる「夫殺しの悪人」で片付けられがちな役なのですが、ギリシア悲劇に詳しい人ならよく知っているように、クリテムネストラこそが悲劇の人で、愛する最初の夫はアダメムノンに殺され、妻にされて、更に最愛の長女も、トロイア戦争の生け贄としてアダメムノン殺されるという前段のエピソードがあり、そりゃ復讐で旦那も殺すよな。それでも、旦那殺しの良心の呵責に日々悩まされる苦悩を、シュヴァルツが見事に表現していて、更に実の娘にありったけの呪いの言葉をかけられて打ちひしがれるところで、クリテムネストラが可哀想になってしまいました。伝説の歌手ですからね、カーテンコールの声援が一際大きかったのも納得です。

アトキンソン役のオレストも、よく通るバリトンで気持ちよかったです。エレクトラとの再会シーンのドゥエットは、偉大なるベテランガーキーと、緊張しているのが傍目からもわかる若手のアトキンソンの組み合わせが、エレクトラとオレストの近親相姦的なエロスをより一層感じさせました。

いやあ、いいもん聴かせてもらいました。来年は何をやるのかな?今から楽しみです。