ジャンヌ・ディエルマン@早稲田松竹

お正月の3連休明けに、早稲田松竹で、ジャンヌ・ディエルマンを観てきました。この映画の正式名称は、「ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地」という長ったらしい名称ですが、これは女主人公(ジャンヌ)+住んでいるアパートメントの住所です。

この映画、ほんの数か月前までは、知る人ぞ知るマイナー作だったのですが、昨年暮に、英国映画協会(British Film Institute、BFI)が10年毎に集計する「史上最高の映画100」で、前回の14位から、突如1位になり、一躍メジャーになりました。

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BFIは、世界中の映画評論家や研究者による投票のため、信頼度が高く、ちょっとした映画ファンならば、割と納得できるランキングです。今回も、「ジャンヌ・ディエルマン」以下は、「めまい」、「市民ケーン」、「東京物語」という誰もが納得できる名作が並んでいます。

そんな中に突如としてランキングトップに現れたこの映画ですが、正直なところ、観る人を選ぶ映画だと思います。3時間20分の長尺です。美しい未亡人がアパートで一人息子と暮らしていて、家事を淡々とこなしつつ、空いている時間に自宅で売春をする、という内容ですが、主婦の日常を、延々と固定されたカメラで追い続けます。ドラマも事件も何も起こりませんし、そもそも会話がほとんどなく、音楽も全くありません。

ラスト20分で、それまでの静謐なタッチをぶち壊す衝撃の事件が起こるのですが、それまでの3時間の描写に耐えられるかどうかがこの映画の肝です。私は、この3時間が非常に面白く、見入ってしまいました。朝起きて、息子の朝食の用意をして、息子の靴磨きをして、息子を学校に送り出して、息子と自分の部屋を片付けて、日々の買い物に行って、お気に入りのカフェでまったりして、近所の赤ちゃんを短時間預かって、午後の空いている時間に売春して、風呂に入って、夕食の準備をして、息子の帰りを待って、夕食をとって、息子と夜の散歩に行って、就寝する、という一連の所作を、延々と長回しのカメラで魅せられるのですが、これが異様にリアリティがあり、完成されたルーチンワークになっています。このルーチンが毎日続きますが、完全に様式美です。禅宗の修行と同じで、一定の所作を繰り返すことによって、精神的に純化されていきます。

その完成されたルーチンワークが、ふとした2、3個のアクシデントにより浸食されて、最後には衝動的に大爆発してしまうのですが、この衝撃を感じるには、やはり3時間のリアリティが必要だったということです。

Wikiに、ストーリーが書かれていますので、下にリンクを張っておきます。

ja.wikipedia.org

それにしても、連休明けの平日の初回上映会がほぼ満員。早稲田松竹恐るべしです。