2.28事件と悲情城市

大学生の時に、「悲情城市」を観て衝撃を受け、それから台湾に足繁く通うようになりました。 「悲情城市」は私の中では、ライフタイムのTop10に入る映画です。

映画は、2.28事件で犠牲となる台湾の有力一家の話です。 2.28事件は、第二次世界大戦後に、日本が台湾から撤退した後に発生した、外省人による本省人の虐殺事件です。この後、台湾は、白色テロという国民党独裁の恐怖政治が40年近く続きます。白色テロをなんとか生き延びた李登輝が、戒厳令を撤廃出来たのが1987年。実は台湾はまともな国になってから、まだ30年しか経っていません。

映画は、ホウシャオシエンの透明なカメラワーキングとあらすじの悲劇性が強烈なコントラストを見せます。掻い摘んで言うと、地元(本省人)の有力一家の男兄弟が、徐々に静かに殺されていく話で、最後は、老人と精神を病んだ3男と女性だけが残されます。

この映画の主役のトニーレオンは、台湾語が話せないので、急遽、聾唖の4男坊という役に台本が書き変えられたそうです。なので、映画の中では、一言も話さない役設定なのですが、澄んだ瞳だけで、自分の情感を余すところなく表現します。上手いです。 最後に、自分が政府に連行されて殺されると感づいたのか、逮捕される前に家族で写真を撮ります。そのシーンは、とても悲しくて美しいです。

20世紀の恐怖政治というと、ナチスのフォロコーストとか、スターリンの大粛清とか、フランコのスペイン独裁とか、ピノチェトのチリ制圧とか、ポルポトの大虐殺とか、色々ありますが、台湾の2.26事件とそれに続く白色テロも、相当酷い話です。何故か、日本ではあまり触れられることはないですが。

九份は、この映画の舞台になった場所で、この映画が大ヒットしてから、有名な観光地になったそうです。映画のロケで使われた店が、今は「非情城市」という名前のレストランになってます。まあ、観光客目当ての店なので、それなりの味と割に合わない値段ですが。

台北駅から歩ける距離にある二二八和平記念公園は、緑あふれる気持ちの良い場所で、朝の散歩にはぴったりですが、公園の中には記念館もあります。ここは、2.28事件についての当時の貴重な資料が集められており、日本語のオーディオガイドもあります。じっくり見ると2時間くらいかかりますが、台湾のリアルを知りたい人にはお勧めの場所です。台湾の一見人の良さそうにみえる爺さん婆さん達が、そう遠くない過去に、互いを殺しあっていたという事実は、なかなか重たく、冷たいモノを感じます。