ルイスブニュエル特集に行ってきましたその2

ルイスブニュエル特集の後半です。ブニュエルの特徴を要約すると、

の3つの軸で語れるのですが、2作品ともその軸が色濃く出ていて、難解という割には、実は大変分かり易い作品でした。でも全く心は動かされなかったですが。

ビリディアナ

修道院の寄宿舎にいた清純なビリディアナが、尼僧になる前に、これまで養育費を払ってくれていた叔父さんに逢いに行くところから話がはじまります。が、この叔父さんが食わせ者のエロジジイで、美しいビリディアナに欲情して、夕食に睡眠薬を盛ってビリディアナをレイプしようとするのですが、結局出来ずに、良心の呵責で自殺してしまいます。叔父さんの莫大な資産を相続したビリディアナは、広大な屋敷を「聖なる乞食」を匿うためのシェルターに改造して、まるで聖人気取りですが、ビリディアナが外出している際に、この乞食共が、家の中をメチャクチャにする程の乱痴気騒ぎを起こして、酔った勢いで帰宅したビリディアナをレイプしようとします。一緒にいた従兄弟に助けてもらってレイプは未遂に終わるのですが、キリスト教にうんざりしたビリディアナが、「やってられないわ」という感じで棄教する、という話です。 カンヌでパルムドールを受賞していますが、アンチクライスト色が強すぎて、本国のスペインでは上映禁止です。特に、乞食共が、ダビンチの「最期の晩餐」を女性器で侮辱するシーンが問題になったらしいです。まあ、スペインはカソリック色が強いですからね。ちなみに、このシーンを観て、ミックジャガーが、「べガーズバンケット(乞食の晩餐)」を思いついたそうです。

ブニュエルの主張がはっきりしていて、「私はカソリックが大嫌いで、貧民に対する施しとか本人の自己満足以外で何の意味もないし、偽善だ。」というのはよくわかります。が、私はそもそも無宗教なので、ブニュエルの言いたいことはわかるけど、それに感動したりショックを受けたりという、要は心を動かされることはないです。自分のバックグランドに、キリスト教を持たない人間の限界ですね。

皆殺しの天使

ブニュエルの最高傑作と言われている作品ですが、今回観た4本の中では一番つまらなかったです。話の筋は非常に有名で、ブルジョア共が豪邸でのディナーの後に、何故か部屋から出られなくなり、徐々に混乱し、錯乱して、人間の下世話な本性が現れてくるという話です。

ブニュエルは、ブルジョアを徹底的に小馬鹿にしており、彼らに品性のない行動を色々取らせるのですが、延々とそればかりやっているので、正直退屈です。 シュールレアリズム作品と言われるだけあって、何の脈絡もなく、熊とか羊とか出てきますが、これも表現としては、ある意味陳腐かな。 映画に出てくる人物を、監督が徹底的に嫌っているので、それを2時間も見せられるのは少々キツかったです。

ブニュエルは、古典的なヨーロッパのインテリだと思います。こういう人は、自分達のバックグランドを観客が共有していることを前提として映画を作っているような気がします。 私は頭では理解できるので知的好奇心は満たされますが、心を動かされることはまずないです。これが、ベルイマンまでいくと、バックグランドとか関係なく、人間の本質的な部分で感動するんですけどね。